Smoking room

「何で俺ばかり」
俺はイライラとしながら天井を見上げる
たかだかと上がる煙
外はいい天気なのに喫煙室だけは曇っている

「チッ」

舌打ちとともに火をつけ一口咥え

「・・まずい」

灰皿にそのまま吸い始めたタバコを
押し付けまた新しいのを咥える

深閑とした喫煙室に人は来ない
朝の喧騒と昼飯前の間のわずかなゆるい時間に
もぐりこむのが
俺は好きだった

灰皿は誰かが先に吸った吸殻が沈んでいて
余計に気持ちを暗くさせる


普段はやらない吸い方をしながら俺は
ベンチに深く腰を落ち着け
ヤニで黄色くすすけた天井を眺める

「・・・ふられた」

まただった
それもあいつのせいで
普段はこんなことは思わない
俺は大佐の部下でありバックアップ
俺は俺のできることをこなせばいい

その形が微妙に崩れることがある

たとえば女だ
仕事だ

「ねぇおねがいだから ロイ大佐に
私のことを伝えてくれないかしら」
とデートの途中でねだる女
俺は突然出たその台詞に引きつった顔で
あいまいにうなずく

「(なんだよ今側にいるのは俺だろ・・?)」

そしてあっけない別れ
話は簡単だった

体重を乱暴にかけると喫煙室のベンチが
悲鳴をあげる
無視して次のタバコに火をつける俺

無能といわれつつ最後の最後に
こなしてしまう大佐

「・・どうしてもかなわない あいつに」
普段は意識していなくてもふとした拍子に
ポロリと出てくる本音

「何故俺は勝てない
何故あいつはあいつなんだ」

何故俺はあいつを越せない?
羨ましい悔しいねたましい

穏やかな笑顔を大佐と挨拶をし
仕事のやり取りをする
一見すればなんてことない日常
その心の裏でたまっていく生ぬるくて
薄い水が俺の心を波打たせ転がす

「くそっ」

俺は金髪をかきむしる

「なんだよこれって嫉妬なのか・・」

気がついたときには足をすくわれ
その水の深さと重さに呆然とする
そんなこともたまにはある らしい。

「駄目だな俺・・」
唇の端になれない台詞を乗せながら
俺は火をつけていないタバコをぼんやりとながめる

「がたり」

音が扉からした

俺より濃い明るい金髪と黄色い瞳をもつ
少年がこちらを眺めながらおどおどとした様子で
観察していた

「かなりおびえてるなこいつ」

口の中で俺は呟いたが今度の言葉は
自嘲気味なわりにあまり苦くなかった
そのことに少し自分でも驚く

「・・少尉ちょっといいかな 
そろそろ仕事にもどってこいって 大佐がよんでるんだけど」

きっとくじで負けて俺をひっぱりにきたな
少年 もといエドのおどおどした様子で俺は推測した

喫煙室に染み付いたタバコのにおいに眉をしかめ
警戒した様子で辺りをうかがう

慣れない野生の猫のようなエドの姿に俺はふと気まぐれを起こす

「こいよ大将」
手招きする
エドはためらった様子だが
しぶしぶと扉を開けてはいってくる
開口一番が

「ヤニ臭い」 だ

「大将ジュース飲むだろ」
「なんか一本おごるぜ」
俺は小銭を引き出す

「え いいよ」というエド
「いいからいいから」

という軽い言い合いのあと

部屋に響く二つのプルタブの音

そして快い沈黙

[ Smoking room:1・ ]




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